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ドイター/エアコンタクトウルトラ 50+5

国際山岳ガイドによる
2022年の新作エアコンタクト ウルトラ
最速使用レポート

ドイター/エアコンタクトウルトラ 50+5

文:平岡竜石(UIAGM 国際山岳ガイド)

本ページの内容は商品インプレッション記事のため、使用者個人の感想を含んでおります。

ドイターのエアコンタクト ウルトラは、2022年に登場したエアコンタクトの新シリーズです。国際山岳ガイドとして活動している私は、ひと足早く2021年の夏に新作のエアコンタクト ウルトラ50+5を入手しました。手にした第一印象は、「いろいろなところを削ぎ落としてきたなぁ」というもの。エアコンタクトは重厚なつくりでおなじみのフラッグシップですが、エアコンタクト ウルトラはフラッグシップの持ち味は残しつつ軽さを特化させています。「これは使いやすそうだ」という直感に間違いはありませんでした。夏から秋、そして雪山まで、テント泊登山を中心に約7ヶ月、40日間実際に山で背負った感想をお伝えします。

相反する軽さと背負いやすさを絶妙にバランスさせた新シリーズ

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登山道具において軽さが重要であることは、いまさらいうまでもないでしょう。「超軽量」や「ウルトラライト」というキャッチコピーも当たり前のものになりました。でも、宣伝文句に飛びつくのはちょっと待った。その軽さがどうして実現したのか、考えてみてください。テント泊装備を入れるような大型のバックパックは登山の快適さを左右するため、とくに慎重に選びたい道具です。

軽くするためには何かを削らなければいけません。多くの場合、犠牲になるのは快適性や堅牢性です。それを理解せずに、むやみに軽さを求めるとしっぺ返しを食らいます。「軽いけど使いにくい」程度ならまだマシ。たとえばバックパックは、最悪の場合は山行の途中で壊れてしまったり、苦痛を感じて背負い続けるのが辛くなってしまったりすることもありえます。トラブルがあっても日帰りならどうにかなるかもしれませんが、もしもそれが衣食住を背負って何日も歩く長期の縦走だったらどうなるでしょうか。

軽量パックが合わなかったというケースでよく聞くのが、「肩が痛くて背負っていられない」というもの。軽量化のために背面システムを簡素化したモデルを選んだことが原因です。腰への荷重分散が十分になされず、肩により荷重がかかってしまったのです。

バックパックの軽さと背負いやすさは、相反する関係にあります。フレームやサイズ調節などの背面システムを強化すればサポート性は高まりますが、そのぶん重たくなってしまいます。逆に背面を簡素にするほど軽量になりますが、背負いやすさは軽減します。エアコンタクト ウルトラは、背負いやすさを重視しつつもできるかぎりの軽量化を測ったモデルです。多くの登山者が使いやすい、絶妙のバランスに仕上がっていると思います。

シンプルながら必要十分な機能を備える背面システム

大型のバックパックは背面のつくりが重要になります。肩にかかる荷重を腰へと分散させるフレームやユーザーの体に合わせる調節機能のように各社が工夫を凝らす部分ですが、私が重視しているのはシンプルで使いやすいことです。複雑な背面システムを上手く調節できずに苦労している人をよく見かけますが、エアコンタクト ウルトラはこの部分がとてもよくできています。

背面の調節方法はメーカーやモデルによってさまざまですが、エアコンタクト ウルトラはショルダーハーネスの付け根にカラビナが取り付けられており、これを架け替えるだけの簡単な仕組みです。本体側にはカラビナを架けるループが2cm刻みの3段階に配置されています。調節幅が少ないように思えるかもしれませんが、実際はこれで十分です。フィット感の高いウエストベルトも、体にパックを引き寄せる肩のスタビライザーも調節しやすい位置と長さになっています。

ちなみに、ショルダーハーネスの取り付け位置は一度決めたら変えることはほぼありませんが、ストラップ類は荷物の重さや行程に合わせてこまめに調節します。簡単にいうと、荷物が軽いときはショルダーハーネスのストラップを引いて背中の上の方で背負い、重くなると緩めて腰へと荷重がかかるようにします。こうした調節によって胸の前で締めるストラップの高さも変わってきますが、こちらは5段階で位置を換えられるようになっています。

エアコンタクト ウルトラはまた、新開発の背面パッドを採用しています。通気性とクッション性を両立し、なおかつ軽いのが特徴と謳っています。じつは、背面の通気性を高めたバックパックを背負うのはこれが初めてでした。一年を通して活動するガイドは雪山で使うことを前提にバックパックを選ぶため、雪が詰まるリスクが高いメッシュなどの背面は、基本的には選びません。初めて使ったので他との比較はできませんが、重い荷物を背負うと背中に熱がこもりやすくなるため、通気性があるのはなるほど快適でした。適度なクッション性のあるパッドは背負ったときの違和感もなく、雪が詰まるかも、という懸念も杞憂に終わりました。

ポケットやストラップなどの細部まで扱いやすい

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長年バックパックを手がけてきたメーカーだけあって、細かいところも使いやすく作られています。大型のトップリッド、貴重品や小物が収納できるトップリッドポケット、ストレッチメッシュのサイドポケットのような定番的ディテールを装備。フロントの大きなストレッチパネルは本当に重宝します。急な夕立の後にアウターシェルやレインウェアを入れるのは当たり前。丈夫でよく伸びるのでヘルメットや3Lのハイドレーションも入れました。3Lを満タンにすると荷物が入った本体の背中側に入れるのは難しいのですが、フロントならさっと入れられます。おすすめはしませんが一時的にアイゼンやピッケルを入れたこともあります。収納スペースはどれも便利ですが、意外にも重宝したのがウエストベルトのポケットでした。大型で上部しか縫い付けられていないので物が入れやすく、スマートフォンや日焼け止め、行動食などなど、いろいろ入れて使っていました。

コンプレッションストラップは取り外しが可能です。本体14箇所のアタッチメントポイントに自由に移動できるので、マットや大型のテント、ピッケルやロープなど、さまざまな道具を外付けできます。8月の剱岳で八ツ峰のDフェースからチンネを継続登攀した時は、このモジュラーギアストラップが大活躍しました。3泊4日のテント泊装備、食料、登攀具やピッケルなど20kg超の荷物を背負って難なく登山することができました(注:メーカー推奨は15kgまで)。細かいところですが、トップリッドやこのコンプレッションストラップは同じバックルを使っています。11月の富士山ではバックルを冬靴で踏んで破損してしまいましたが、ストラップのバックルを利用することで事なきを得ました。

雪山でも使えるのか? 耐久性は?

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2021年の夏から使っていましたが、お客様から、「雪山でも使えますか?」とよく聞かれました。大型のトップリッド、ストレッチメッシュのサイドポケットやフロントパネル、メッシュの背面や丸みを帯びたシルエットのような外見が雪山登山には心許ない印象を与えたようです。

私自身も興味があったので、11月下旬の富士山テント泊登山、12月の八ヶ岳阿弥陀岳広河原沢テント泊アイスクライミング、1月の北岳テント泊登山、1月の甲斐駒ケ岳戸台川テント泊アイスクライミングの計4回9日間の雪山登山で使ってみました。

答えは「イエス」です。

背面パッドのメッシュやフロントパネル、サイドポケットには、意外にも雪の侵入が少なく雪が溜まるような事はありませんでした。これは新しい発見でした。

ピッケルホルダーは装備していませんが、アタッチメントポイントが14ヶ所もあるので、ピッケルでもスコップでも簡単に取り付ける事ができました。

そもそもは無雪期3シーズン用のモデルですから雪山での使用は想定外ですが、野暮を承知で難点を挙げるなら、バックル類が小さいこと。手袋をしたままでは取り扱いがちょっと困難でした。とはいえ、1週間以上の長期の雪山登山や、何日も何日も-20℃以下でまったく手袋が外せないような高所登山でなければ大きな問題にはならないでしょう。

耐久性も気になるところだと思いますが、夏秋冬と40日間使用してだいぶ汚れてしまったものの目立った傷はありません。もちろん切れたりほつれたりもありません。唯一壊れてしまったのは、誤って冬靴で踏んでしまったバックルだけです。

この記事を読んでいるなかにも、「基本は無雪期だけど、ちょっとした雪山登山くらいまではひとつのバックパックで済ませたい」という方は多いと思います。エアコンタクト ウルトラは、そうしたユーザーにまさにぴったりのモデルです。軽量パックで失敗してしまった前述のケースは女性からよく聞く話ですが、バックパックを軽くしたいと考えている方もぜひ。45+5の女性用モデルもあります。これから初めてテント泊登山をしようと思っている方はもちろん、ベテランにもおすすめできます。私自身、今後の3シーズンのテント泊登山はエアコンタクト ウルトラ50+5をメインで使おうと思っています。

ひらおかりゅうせき平岡竜石(ひらおか・りゅうせき)
1968年生まれ。UIAGM国際山岳ガイド。1991年に、チベットのシシャパンマ(8036m)登山以来20年以上に渡り高峰を登り続けている高所登山を専門とする。

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