IWATANI-PRIMUS イワタニ・プリムス株式会社

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テント泊登山のススメ

文・伊藤俊明 写真・杉村航、大森千歳(順不同)

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テントは山の家。テント泊登山とは、生きるために必要な衣食住をすべて背負って歩くということ(写真:杉村航)

いつかはテント泊で山を歩きたい。登山をはじめて、そんな憧れを抱いている人も多いでしょう。
テント泊登山の魅力は、なにより自由なことです。そういうと不思議に思われるでしょうか。
テント泊となれば装備は重くなるし、毎回の食事も自分で用意しなければなりません。雨が降れば濡れるし、風が吹けば寒さを感じる。快適なことばかりではありません。日本の山、とくに国立公園内では、原則としてテントは指定された場所以外では張ってはいけないことになっています。どこでも寝られるというわけではありません。
「一体、なにが自由なの」と思うかもしれませんが、想像してみてください。テント泊登山では、衣食住のすべてを背負って歩きます。テントを張っていい場所は限られていますが、どこに泊まるかを決めるのはあなたです。いつ、何を食べるかも自分で決めます。営業時間もラストオーダーもありません。まだ明るいうちに夕食を済ませてもいいし、のんびり夕日を見送ってからバーナーに火をつけてもかまいません。
すべては自分で決める。こんなこと、日常生活でもあまりないのではないでしょうか。テントや寝袋、水や食料を背負って長時間歩くのは疲れます。それでも、それを引き受けた先には、ふだんはなかなか得られない解放感と充実感が待っています。
テント泊に挑戦したいという人のために、ここでは必要な装備とその選び方を紹介します。まだ経験したことがない人も、この夏はぜひチャレンジしてみてください。


最初の一張りは自立式のダブルウォールがおすすめ

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人気モデルのニーモ/タニも自立式・ダブルウォールテント(写真は2P)。テントは、テンションをしっかりとかけて張ることで本来の耐風性、防水性能を引き出すことができる(写真:杉村航)

テントは、その構造や設営方法によっていくつかのタイプに分けられます。しかし、最初の一張りを選ぶなら答えはひとつ。自立式のダブルウォールテントです。
自立式とは、ペグなどで地面に固定しなくても、組み立てればテントの形ができあがるもの。日本の山のテント場はペグが刺さらない硬い地面の場所も多いのですが、そういう場所でも簡単に設営できます。
ダブルウォールとは、インナーテントの外側に防水のフライシートを被せるタイプで、文字通りふたつの壁を持っています。雨を避けるのはフライシートの役目で、インナーテントは通気性を備えているため、内壁が結露しにくいという特徴があります。また、フライシートのテント入り口部分を大きくすることで、前室と呼ぶ土間のようなスペースがつくれます。雨が多い日本の山では、この前室スペースがなにかと役に立ちます。
テントは、テント泊装備のなかでも重たいものの筆頭です。もともと重たいので軽くする余地も大きく、市場には軽さやコンパクトさを謳った製品が溢れています。テント泊登山では荷物が重くなるため「軽さ」には目を奪われがちですが、とくに初めてテントを選ぶ人は軽さだけにとらわれないよう注意しましょう。軽くするためには何かを削らなくてはいけないということをお忘れなく。
たとえば生地を薄くすれば耐久性は低下しますし、フレームを少なくすれば居住性は損なわれます。素材の進化やデザインの工夫でカバーできることにも限界はあります。極度に軽いモデルは、何を削って軽くなったのかをよく理解したうえで使いこなすことが求められます(それができる上級者であれば、もちろん導入する価値は大いにある道具です)。
市場には1kgを切るモデルも登場していますが、初めてでも使いやすいオーソドックスなモデルは、一人用なら1.2kg程度でしょう。ニーモのラインナップなら、タニやアトムがおすすめです。

登山の寝袋はダウンが定番

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スプーンシェイプは、就寝時の体勢を考慮したNEMO独自の形状。窮屈な思いをせずに快適に寝られる(写真:杉村航)

テントに続く重要装備が寝具です。マットと寝袋。このほかにカーペットのようにテントのフロアに敷くテントマットを持参する人も少なくありません。
寝袋は中綿の種類によってふたつに分けられます。定番はダウン。軽量で、ふんわりと空気を閉じ込めて温かく、ぎゅっとコンパクトに収納できるので、すべてを背負わなくてはならない登山にはぴったりの素材です。もう一方は化学繊維の中綿で、こちらは濡れに強いのが最大の特徴。ただしダウンと比べるとかさばるため、登山でも使えるモデルとしては夏用の薄手のモデルが現実的な選択肢となります。
寝袋を選ぶときに多くの人が悩むのが、どのくらいのボリュームのものがよいのか、でしょう。これを判断する有効な指標が、多くのメーカーが導入しているヨーロピアンノームです。
ヨーロピアンノーム(EN13537)は、それまで個々の感覚で表されていた使用温度域を第三者機関が共通の検査方法を用いて算出するための規格です。温度センサーを備えたマネキンを使用して測定され、「Tコンフォート」「Tリミット」「Tエクストリーム」の3つの数値で表されます。
Tコンフォートは、一般的な成人女性が寒さを感じることなく寝ることができる温度。Tリミットは、一般的な成人男性が寝袋の中で丸くなり、8時間寝ることができる温度。Tエクストリームは、一般的な女性が寝袋の中でひざをかかえるくらい丸くなった状態で6時間までなら耐えられる温度です。
3つの数値は一般的に女性の方が寒さを感じやすいことを踏まえて定められていますが、これをもとに推奨温度域を表示しているメーカーも少なくありません。たとえばニーモの場合は、男性用のモデルではTリミットの数値を「下限温度」として表示しています。メンズモデルのリフ30は、下限温度が−2℃です。一般的な男性なら、寝袋のなかで丸くなれば−2℃でも8時間は寝られるということです(性能を保証するものではありません)。
一方、女性モデルの場合はTコンフォートの数値を「快適使用温度」、Tリミットの数値を「使用下限温度」として表示しています。女性モデルのリフ30W'sは快適使用温度が−1℃、使用下限温度が−6℃になります。Tリミットの数値がメンズモデルとちがうのは、中綿の量や配置を女性向けに変えているためです。なお、低体温症のリスクが高くなるTエクストリームは、男性用女性用ともに公表していません。
こうしたスペックは一見複雑に感じるかもしれませんが、意味を理解していれば、自分が使おうとしている環境にちょうどいいモデルを選ぶことができるはずです。

マットは眠りの質を左右する装備。おろそかにすることなかれ

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パンクすることがないクローズドセルタイプは、エントリー向けとしても根強い人気を誇る(写真:大森千歳)

寝具といえば真っ先に寝袋を思い浮かべますが、寝袋と同じくらい重要で、その性能を最大限に引き出す役割をもつのがスリーピングマットレス(以下、マット)です。
寒さを感じる原因となる冷気は、地面から来ます。地面の凹凸を緩和するクッション性も大切ですが、マットのいちばんの役割は、下から来るこの冷気を遮断することです。この断熱性能はR値という数値で表され、数字が大きくなるほど断熱性能は高くなります。
構造で分けると「クローズドセルフォーム」「セルフインフレータブル」「エアマット」の3タイプになります。
クローズドセルフォームは、フォームタイプの一体型。デメリットをあげるとすればコンパクトにならないことですが、シンプルで壊れることのない、信頼性の高いマットです。
セルフインフレータブルは自動膨張式とも呼ばれます。ウレタンのフォームをポリエステルなどの外皮で包み、空気を出し入れするバルブを備えています。使用時は空気を注入し、使用後は、フォームを潰して空気を押し出せばコンパクトに収納できます。
エアマットは文字通り空気で膨らませるタイプです。軽量でコンパクトになるのが最大の魅力で、装備のかさや重量を抑えたいときに頼りになります。
テントと同じように、寝袋やマットも軽量化しやすい装備です。ただし、寝袋やマットの極端な軽量化は睡眠の質を低下させます。翌日も元気に行動するためには、しっかりと体を休めて疲労を癒すことが大切です。これからテント泊登山に挑戦する人は、まずは安眠できることを最優先しましょう。

テント泊登山の衣と食

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山ごはんを楽しむのも、夕日を見ながらバーナーに火をつけるのも、テント泊なら思いのまま(撮影:杉村航)

テントや寝具は衣食住の住にあたる装備です。テントで寝るということは山で生活することですから、当然のことながら衣も食も必要になります。ただしこれは日帰りや山小屋泊登山の延長で考えれば大丈夫です。
バーナーやクッカーを持参して山ごはんを楽しんでいる人は、テント泊でも同じように実践してください。日程が長くなれば、軽量なフリーズドライやアルファ化米が重宝します。登山用品専門店の棚を埋め尽くす色とりどりのメニューをご存知の方も多いでしょう。数あるなかから自分の好みを見つけるのも楽しい作業です。
ウエアは人それぞれですが、多くの人が宿泊時には乾いた快適なウエアに着替えています。ただし、行動中は基本的には着たきり雀。街にいるときのように、毎日着替えることはしません。宿泊用のウエアは、いざというときの備えでもあります。防水のスタッフサックなどに入れて濡らさないように持ち歩きましょう。着るものについて付け加えるとすれば、防寒着の重要性です。標高高くなると、夏でも朝晩は冷え込みます。お守り代わりにダウンや化繊綿を封入したインサレーションウエアを用意しましょう。寒いと感じる夜は、着込んで寝ると寝袋の性能を1ランクアップできます。

衣食住を快適に運ぶトランスポーター

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ハイカットブーツは疲れを抑えるだけでなく、岩などにヒットしたときも足を守ってくれる。

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大型パックには装備を外付けできる工夫がなされている(写真:大森千歳)

最後に、忘れてはならないのが、足元を支える登山靴と装備を詰め込むバックパックです。
重たい荷物を持ち慣れていない人には、固めのソールをもつハイカットの登山靴がおすすめです。硬いソールは、はじめは歩きにくく感じるかもしれませんが、不整地でもしっかりと足元を支えてくれるため、結果的には疲労を抑えられます。足に合わない登山靴はトラブルの元です。購入時は、実際にお店に行き、念入りに試着して選びましょう。
テントや寝袋、マットなどの、現在市場にある標準的なモデルを選ぶなら、バックパックは50Lクラスが適当です。バックパックもまた、体に合ったものを選ぶことで重たい荷物を背負ったときに体への負荷を軽減できます。テント泊の装備一式を背負うなら、背面にしっかりしたフレームを備えて肩から腰へ荷重を分散してくれるモデルがいいでしょう。
たとえばドイターなら、エアコンタクト55+10。女性用ならエアコンタクト50+10SLがおすすめです。体格に応じて背面長を変えられるので誰にでもフィットしやすく、さらに背面の通気性を高めたデザインで暑い夏も快適に背負えます。

大切な道具は、五感を総動員して選びたい

テント泊登山とひとくちにいっても、そのスタイルはさまざまです。何日もかけて山々を繋いで歩きたいという人もいれば、絶景のテント場でリラックスした時間を楽しむのが好きという人もいます。
スタイルによって適した装備は変わりますが、それぞれに魅力があるので、これからはじめる人が「コレ」と定めるのは簡単ではありません。ですから、まずは汎用性の高い、間違いのない道具を手にすることをおすすめします。ブランドの看板製品や、多くの人に「定番」と認められている製品です。
購入は、ぜひとも登山用品専門店などの実店舗で。目で見て、手で触れてはじめてわかることも少なくありません。クリックひとつでものが届くのはとても便利ですが、実際に手にとって「あれ?」と思うことほど、せつない買い物はありません。大切な趣味の時間で、長く使おうとするものならなおのこと。スペックには現れにくい、感覚的なことも大切に選んでください。

おすすめのアイテム
ニーモ アトム2P

ニーモ アトム2P

シンプルなデザインの中にゆとりのある居住スペースと前室、さらに様々なロケーションを考慮した耐久性のあるフロア素材の採用など山岳用テントに求められる機能をカバーしたモデル。設営のしやすさもテント場では結構助かるオススメポイント。

ニーモ リフ30

ニーモ リフ30

スプーンシェイプというニーモ独自のアイデアのつまった3シーズン用ダウンシュラフ。多くの人が横向きになって眠ることを考慮した形状からしっかりと体を休めることができる。

ニーモ オーラレギュラーマミー

ニーモ オーラレギュラーマミー

トップとボトムで素材を変えることで耐久性を持たせながらもコンパクトなパックサイズと軽量化を実現している。

ドイター エアコンタクト55+10

ドイター エアコンタクト55+10

雨蓋部分の高さを上げることでプラス10ℓ分の容量アップが図れる点、フロントアクセス機能、荷室を2つに分ける機能があり、パッキングしやすさがある。さらに、背面長の調整、ショルダーストラップのフィット機能と背負った時のバランスが良い大型パックです。

ローバー ティカムⅡ

ローバー ティカムⅡ

重い装備を背負うときに求められる堅牢性と足首周りの柔らかさ、フィット感を高めるシューレース周りにある独自の機能が、テント泊山行に快適な歩行性をもたらすトレッキングブーツの代表モデル。

プリムス ウルトラ・スパイダーストーブⅡ

プリムス ウルトラ・スパイダーストーブⅡ

ソロはもちろん、パートナーと仲間たちとの山行でも活躍する分離型のコンロ。低重心であることは使用するクッカーサイズが大きくなっても安定感がある。仲間と囲むテント場での鍋などにも適している。

伊藤俊明(いとう としあき)

伊藤俊明(いとう としあき)

アウトドア誌や登山誌、WEBなどで活動するライター。冬から残雪期はスキーで山に行く。板をしまったら夏山の季節がスタート

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