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山の「住」をトータルでサポートするニーモのテント泊装備

ニーモ/ホーネット・ストーム2P、テンサーレギュラーワイドレクタングラー、スイッチバック、リフ30、フィッロ・エリート

文:平岡竜石(UIAGM国際山岳ガイド)

本ページの内容は商品インプレッション記事のため、使用者個人の感想を含んでおります。

新型コロナウィルス禍における新しい登山様式についてはいろいろなところで紹介されていますが、登山はもともと屋外でするものですから、ソーシャルディスタンスを保つのは比較的容易です。しかし、宿泊を伴う登山に関しては十分に気を使わなければいけません。こうした状況のなかでは、テント泊登山に注目している人も多いのではないでしょうか。

僕は国際山岳ガイドをしているので、例年なら春から秋にかけてはほとんど海外で登山をしています。しかし今年は海外に行くことができず、国内登山に切り替えようとしていたところ、各地の山小屋は営業を中止しているか、営業していても定員を半数に減らして完全予約制というところがほとんどという状況です。なかなか予約が取れないこともあり、最近はテント泊登山をメインにガイド活動を行なっています。

近年、グループで登山していてもテントや炊事は各自で、というスタイルの人をよく見かけます。正直にいうとあまり良い印象はありませんでしたが、新型コロナウィルス禍においては適したスタイルといえるでしょう。僕もそんなスタイルを真似て、ソロテント泊登山ガイドを実践してみました。

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軽量コンパクトながら居住性が高いテント

ホーネットストームは、2018年に発売されたニーモの最軽量テントです。例年ならこの時期はヒマラヤやアンデスでガイド登山をしており、テントもいつもは冬用のタフなモデルを使っているため、まずはその軽さとコンパクトさに驚きました。1人用の1Pと2人用の2Pがあって、1Pはなんと760gしかありません。2Pでも940gですから、快適性と汎用性を重視して2Pを選びました。

ホーネットストームのいちばんの特徴は、軽さと同時に快適性や居住性も追求していることで、そのためにいろいろな工夫をしています。まずは独特なフレームデザイン。あらかじめカーブさせた3本のポールからなるY字型のフレームが、出入り口のある頭側が高く、足元側が低いテントのカタチを作り出します。ユニークなのが、インナーテントの上部空間を広げる「フライバーボリューマイジングクリップ」というプロペラのようなパーツ。頭上のスペースを大きく広げてくれるので出入りがしやすく、腰から下は寝袋に入ったまま座ってくつろいだり、食事をしたりするときにも圧迫感がありません。このパーツにはフライシートのテンションを均一に保つ効果もあり、インナーテントとの間に十分な空間をつくってくれるため、結果として防水性も高くなります。剱岳の剱沢キャンプ場では数時間続いた夕立の大雨にも遭遇しましたが、雨漏りはまったくありませんでした。

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    インナーテントの上部空間を広げるフライバーボリューマイジングクリップ
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    テンションが均一にかかることで防水機能もしっかり効く

2Pはまた、左右に出入り口と前室を備えています。軽さだけを求めるならドアの数は増やしたくないところですが、これは実用性や快適性を考慮したうれしいポイント。ふたりが同時に出入りできるし、各自の装備を置く十分なスペースも確保できます。さらに、この両側の出入り口を全開にすると風通しも抜群。晴天昼間のテント内は暑くていられないものですが、まるでタープの下にいるように、炎天下でも快適に過ごすことができました。

Y字型のフレームは軽さと実用性を追求した結果ですが、設営の際には足元側の2箇所を地面に固定する必要があります。僕はガイラインキットを使って、ここに直径20cmほどのループを取り付けました。風雨に耐えるためにはしっかり設営することが前提となります。山のテント場はペグが効かない硬い地面も多いですが、このループがあれば石を使って固定するときも簡単にできます。ホーネットストームは、夏山で頻繁にテント泊をするような山に慣れた人におすすめしたテントですが、こうしてカスタマイズすることでさらに使い勝手が良くなります。

  • photoガイラインで大きめの石をアンカーとした使用例
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    風雨に耐えるための工夫をした設営をしましょう

マット2枚で山行全体の快適性が向上

1泊以上の山行では、よく眠り、疲労を翌日に残さないことが大切です。装備の軽量化が重要なのはいうまでもありませんが、寝具はあまり我慢をせずに快適に眠れるものを選ぶべきです。とくに3泊以上の長期におよぶ山行では、僕はエアパッドとクローズドセルフォームパッドの併用をおすすめしています。

山では整地されていない場所にテントを張ることもありますが、そんなときに背中に違和感があるようでは安眠できません。それを解消してくれるのがテンサーシリーズです。

テンサーは厚さ7.5㎝のエアパッド。本体内部には伸縮性を抑えた隔壁「スペースフレームバッフル」を採用していて、極厚エアパッドにありがちなフワフワと落ち着かない感触を抑えた、適度に弾力のある快適な寝心地を備えています。

テンサーシリーズにはこれまで体の線に沿ったマミー型しかありませんでしたが、2020年に幅広のレクタングラー(封筒)型が加わりました。幅が64cmあって足元まで四角いので寝返りを打ってもマットから落ちる心配がなく、超快適なテント生活を約束してくれます。それでいて重さは460g。畳むと本当に小さくなります。ちなみに同じレギュラーサイズのマミー型は345gですが、ワイドレクタングラーの快適さを知ったあとでは115gの差はないも同然だと思っています。

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これまで極厚・大型エアパッドは、その大きさゆえに膨らますのも畳むのも大変でした。しかしテンサーシリーズには新開発の「フラットバルブ」と「ボルテックスポンプサック」が装備されていて、口で息を吹き込む必要がありません。空気の流入量が多いこのバルブとポンプサックはとても効率が良く、4~5回のポンプ作業でレギュラーサイズのワイドレクタングラーがパンパンに膨らみます。マミー型のミディアムサイズならおそらく2~3回で十分でしょう。バルブは2段式で膨らませる時は空気が漏れず、畳むときには全開にすれば一気に空気が抜けます。

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フットバルブに付属のボルテックスポンプサックを取り付けて簡単に空気を入れることができます。バルブを開けば一気に空気が抜けて、素早い撤収が可能です。

テンサーは厚みがあり、これ一枚で保温性も十分に確保できます。しかし、ここにクローズドセルフォームパッドを追加することで格段に実用性が高まります。

実際の登山では、雨も降れば風も吹き、ちゃんとテントが張れないこともあります。風雨の中でテントを広げて、逃げ込むように中に入って一晩を過ごすなんてこともあります。そんなに厳しいシチュエーションでなくとも、地べたに直接マットを敷いて座りたいことはよくあることです。そんなときはクローズドセルフォームパッドの出番です。

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    エアパッドとの併用をお勧めしたいスイッチバック
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    計算された凹凸デザインが厚みを抑えた収納サイズを実現

クローズドセルフォームパッドは寝心地は煎餅布団以下ですが、雑に扱うとパンクしてしまうこともあるエアパッドに対して、手荒く扱ってもまず壊れないという大きなメリットがあります。僕は、荒天時にまずテントを設営し、その中にすかさずクローズドセルフォームパッドを広げて登山靴のまま逃げ込むという使い方もよくします。雪の上で作業をするときなどにも重宝します。愛用しているのはスイッチバック。収納性が高く、クローズドセルフォームパッドにしてはコンパクトになるのでレギュラーサイズを使っています。3泊以上の長期になればもちろんですが、1泊2日でも併用した方が俄然快適になります。

わずか80g、握りこぶしサイズのアクセサリーが睡眠の質を高める

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幅広・快適なテンサーレギュラーワイドレクタングラーを選んだからには、スリーピングバッグもそれに見合ったものにしたい。そう考えて決めたのがリフ30です。撥水ダウンを封入した2020年に発売されたモデルで、ヨーロピアン・ノームの使用下限温度(T-Limit)*が−2℃なので日本の夏山で使いやすいボリューム感だと思います。

ヒジとヒザにゆとりをもたせた独特の形状は、「スプーンシェイプ」と呼ばれるニーモ独自のもの。「世の中の約70%の人々は横向きの姿勢で眠り、一晩に数十回の寝返りを打つ」という考えを元につくられた形です。

かくいう僕もサイドスリーパーで、ふだん家では横向きで寝ています。従来のマミー型のスビーピングバッグをさして疑問も抱かずに使っていましたが、スプーンシェイプのスリーピングバッグで初めて寝たときは、「こんなにも快適なのか」と驚きました。

撥水ダウンは、湿気が多い日本の山には本当に向いていると思います。とくに長期の山行になると、たとえ雨が降らなくても体が発する湿気でダウンはロフトを失い、ぺちゃんこになります(冬は氷漬けになってしまいます)。これは長期のテント山行における長年の課題ですが、それが抑えられるのでないかと大きく期待しているところです。さらにリフ30は、フードと足元に防水透湿素材を使っています。結露したテントの内壁と触れる部分なので、ここを守るのはとても実践的。テント生活がよくわかっている証拠です。テント、マット、寝袋と、衣食住の「住」をトータルで手がけるニーモならではの工夫といえるでしょう。

細かいギミックは他にもあり、微妙な温度調節を可能にするのがファスナーを開いて内部の熱を逃がす「アジャスタブルサーモギル」と首元の「ブランケットフォールド」。とくにブランケットフォールドは有効です。それから、意外と便利なのが肩口の小さなポケット。ここにはヘッドランプとウォークマンを入れて使っています。

  • photo寒い時は首回りに巻きつけることで快適さが高まるブランケットフォールド™
  • photo小物の収納に便利なポケットを肩口に備えています。

最後にご紹介したいのが枕。フィッロエリートはわずか80gで、収納すれば握りこぶし程度のコンパクトサイズです。僕は高めの枕が好きなので最初は少し低いなと思いましたが、リフ30のピローポケットに入れると首の定位置にフィットして、高さも十分でとても快適でした。今ではリフ30のピローポケットにいつも入っていて、一緒にパッキングされています。テント、マット、スリーピングバッグときて、仕上げがこの枕。山の快適な住環境が整いました。

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    息を吹き込むことで山でもリラックスできるフィッロ・エリート
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    リフのピローポケットに収納できるフィッロ・エリート(写真のカラーは取扱外カラー)

*ヨーロピアン・ノームとは、2002年に制定されたEU諸国間における工業製品の基準となるもので、シュラフに関する温度表記の算出について定義しています。個人の感覚で表記されていた使用温度域を、共通の検査方法で算出し表記しています。使用下限温度(T-Limit)は、標準的な成人男性が寝袋の中で丸くなり、8時間寝られる温度とされます。

photo平岡 竜石(ひらおか・りゅうせき)
1968年生まれ。UIAGM国際山岳ガイド。1991年に、チベットのシシャパンマ(8036m)登山以来20年以上に渡り高峰を登り続けている高所登山を専門とする。

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