文:森山憲一(山岳ライター)
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第一印象は「えっ、これがローバー!?」。というのも、ローバーというと、クラシックなレザーブーツの印象が強かったからだ。それに対して、この「アルパインプロGT」は、いかにも現代的なアルパインデザイン。
ローバーは1923年創業のドイツの老舗登山靴メーカーだが、聞くところによると、2016年度まで日本で展開されていたモデルの多くは、ヨーロッパで展開しているモデルと異なり、日本独自路線を歩んでいたそうだ。2017年から代理店がイワタニ・プリムスに変わり、日本でも本場ヨーロッパの流れを取り入れたグローバルなラインナップを扱うようになったのだという。 ローバーのバックパッキングやトレッキング用の靴はいまでもドイツの本社工場で生産している。しかし、一部のアルパインブーツは岩稜登山の本場、イタリア工場の職人によって生産されている。靴のモデルによって工場を使い分けているらしい。
アルパインプロGTは、イタリア生産のアルパインシリーズのフラッグシップモデル。見た目の印象が違っていたのはそういうわけか。硬めのソールにかかとのコバを備え、アイゼンにも対応する、アルパインクライミングやハードトレッキング向けのブーツだ。特徴的なのは取り外し可能なタンで、ベルクロで位置を自在に変えられるため、微妙なフィットの調整ができるようになっている。3シーズンブーツで、こうした凝った仕組みを採用しているものはあまりない。
歩き出してみると、思った以上にマイルドな歩行感。この手の靴は硬めでカチカチした履き味になることが多いのだが、アルパインプロGTはソールがほどよくしなり、フラットな道も歩きやすい。このクラスの靴としては、非常にナチュラルに歩ける靴だと感じた。つま先の形状もよく、先端がへんに引っかかるような感じもない。このへんはさすがにローバーらしいところで、これなら普通のトレッキングも含めて、幅広く使えそうである。
岩場は、この靴の本領というべき場所。ソールがほどよい硬さのため、小さな足場でもバチッと安定して立てる。ここが、一般的なトレッキングブーツと最も違いを感じられるポイントだ。靴内部でつま先がソール先端の真上にくるような設計になっているらしく、狭い段差にも立ちやすい。この設計を生かすためにも、これはぜひ、ジャストサイズで履くべき靴だろう。
雪渓もある程度の傾斜まではノーアイゼンで登れる。一般登山道で出てくる雪渓ならば、ほとんどの場所でアイゼンの必要性は感じないと思う。靴に剛性があるため、軽く蹴り込んだだけで、雪面にがっちり足場を作ることができるのだ。動画を見てもらえればわかるけれど、ステップにエッジが立っている。剛性が低く、ソールもラウンドしている一般的なトレッキングブーツだとこうはいかない。丸まったステップしか作れず、滑りやすくなってしまうのだ。
アルパインプロGTに向いているのは、剱岳や穂高岳など、岩場や雪渓の多い山。こういう場所に向いたブーツはほかにもあるが、アルパインプロGTが特徴的なのは、歩行性能も高いところだろう。ソールを硬めにすると岩場や雪渓は登りやすくなるが、フラットな場所は歩きにくくなってしまう。その点、アルパインプロGTは、硬すぎない絶妙な設定。それによって、岩場の山だけでなく、縦走などでも使えるブーツに仕上がっている。剛性が高いため、重荷を背負った縦走などにもよいと思う。見た目は攻撃的だが、尖りすぎないオールラウンド性が、この靴の大きな特徴になっている。